VEGF阻害の重要性とアフリベルセプトの作用メカニズム
1)
Uemura A, et al.: Prog Retin Eye Res. 2021. DOI: 10.1016/j.preteyeres.2021.100954. 利益相反:本論文の編集補助者に対して、Bayer Consumer Care AGより資金提供があった。著者にBayerより研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
2)
Papadopoulos N, et al.: Angiogenesis. 2012; 15(2): 171-185. 利益相反:本論文の著者全員がRegeneronの社員である。
3)
Saharinen P, et al.: Nat Rev Drug Discov. 2017; 16(9): 635-661.
nAMDは、1970年代ごろよりレーザー光凝固による治療が始まり、2000年代以降に抗VEGF薬による治療が始まりました
nAMDの治療変遷
※
ラニビズマブBS:2021年9月承認取得、ファリシマブ:2022年3月承認取得、アフリベルセプト8mg:2024年1月承認取得
CNV(choroidal neovascularization):脈絡膜新生血管
PDT(photodynamic therapy):光線力学的療法
大島 裕司 ほか: あたらしい眼科 2021; 38(12): 1431-1439.
wAMD Real Practice Discussion会議に参加されていた日本のnAMD専門医の9割以上が、未治療nAMD患者に対する主な治療法として、抗VEGF薬単独を選択していました
nAMD診療の実態:実地診療を担う専門医を対象としたアンケート調査
未治療nAMD患者に対する主な治療方針
STTA(subtenon injection of triamcinolone acetonide):トリアムシノロンアセトニド テノン嚢下投与(加齢黄斑変性に対して未承認)
対象
nAMD専門医であり、2018年11月にバイエル薬品株式会社の主催により東京で開催されたwAMD Real Practice Discussion会議に参加した84名の医師(開業医16名、基幹・市中病院の医師21名、大学病院の医師47名)
方法
当日の会議において、参加した医師の背景、nAMDの診断および治療に関するアンケート調査を行った。回答は断りがない限り単一回答とし、医師はAnswer Padを用いて回答の選択肢の中から該当する回答を選択した。質問ごとに各回答の選択肢を選んだ医師の数(回答数)と割合(当該質問に回答した医師の総数を母数とした)を求めた。
利益相反
本論文の作成に際し、バイエル薬品株式会社から資金提供を受け、株式会社インターサイエンス社が執筆および投稿の支援を行った。
本論文に使用したデータは、バイエル薬品株式会社が主催した会議のなかで実施されたアンケート調査で得られたものである。ただし、バイエル薬品株式会社はアンケート調査で得られたデータの集計、解釈、本論文の記載方針や内容については一切関与しなかった。
髙橋 寛二 ほか: 眼科 2020; 62(5): 491-502.
DMEの原因は糖尿病による慢性高血糖であり、その病態にはVEGFが重要な役割を果たしています
http://www.scienceofdme.org/wp-content/uploads/2014/09/DME-Progression-and-Treatment-Infographic.pdf
Source and Copyright: ©2016 by The Angiogenesis Foundation, Inc., All Rights Reserved. www.scienceofdme.org
VEGF165†を硝子体内注射すると糖尿病網膜症様の眼底所見を示すことが報告されています(サル)
†:VEGF-Aのサブタイプの1つ
Ferrara N, et al.: Nature. 2005; 438: 967-974.
VEGF165投与による黄斑の変化
PBS(phosphate-buffered saline):リン酸緩衝生理食塩水
VEGF165硝子体内注射後の黄斑(B)では、毛細血管および静脈が異様に拡張し、嚢状の毛細血管瘤様構造が認められました(白矢先部分)。
※
糖尿病網膜症において網膜浮腫が黄斑に及んだ状態がDMEであり、DMEは糖尿病網膜症のいずれの病期でも生じる可能性があります。
対象
カニクイザル3匹
方法
眼にVEGF165を1.25μgまたは等量のPBSを3日ごとに15日間硝子体内注射した。それぞれの網膜を採取し、網膜血管を可視化するために網膜をADPaseで染色した。網膜を包埋後、血管障害性変化および前網膜新生血管を検出した。
Adapted from Am J Ophthalmol., 133(3), Tolentino MJ, McLeod DS, Taomoto M, Otsuji T, Adamis AP, Lutty GA.,
Pathologic features of vascular endothelial growth factor-induced retinopathy in the nonhuman primate., 373-385.,
Copyright (2002) by Elsevier Science Inc., with permission from Elsevier
DMEでは眼内VEGF††濃度の上昇が報告されており、DMEの病態に関与していると考えられています
††:VEGF165
DMEの重症度別の前房水中VEGF濃度
対象
糖尿病網膜症患者54例(黄斑浮腫なし28例、局所性黄斑浮腫18例、びまん性黄斑浮腫または嚢胞様黄斑浮腫8例)
方法
白内障手術時に前房水サンプルを採取し、VEGF濃度をELISA法で測定した。
Adapted from Am J Ophthalmol., 133(1), Funatsu H, Yamashita H, Noma H, Mimura T, Yamashita T, Hori S.,
Increased levels of vascular endothelial growth factor and interleukin-6 in the aqueous humor of diabetics with macular edema., 70-77.,
利益相反:本論文の著者にBayerより講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
Copyright (2002) by Elsevier Science Inc., with permission from Elsevier
VEGF-AはVEGFR-1およびVEGFR-2に結合し、炎症、血管透過性亢進、血管新生を惹起します
VEGF-Aと炎症細胞・血管内皮細胞の関与
監修:北海道大学 大学院医学研究院 眼科学教室 教授 石田 晋 先生
VEGFR-1(vascular endothelial growth factor receptor-1):VEGF受容体-1
VEGFR-2(vascular endothelial growth factor receptor-2):VEGF受容体-2
アフリベルセプトは、唯一のVEGFファミリー阻害薬であり、VEGF-Aに加えVEGF-BやPlGFを阻害します
アフリベルセプトの分子構造
監修:北海道大学 大学院医学研究院 眼科学教室 教授 石田 晋 先生
現在承認されている抗VEGF薬は共通して、主な標的因子としてVEGF-Aの阻害作用を有しています(2024年8月現在)
抗VEGF薬の物質特性一覧
監修:北海道大学 大学院医学研究院 眼科学教室 教授 石田 晋 先生
1)
Uemura A, et al.: Prog Retin Eye Res. 2021. DOI: 10.1016/j.preteyeres.2021.100954. 利益相反:本論文の編集補助者に対して、 Bayer Consumer Care AGより資金提供があった。著者にBayerより研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
2)
Papadopoulos N, et al.: Angiogenesis. 2012; 15(2): 171-185. 利益相反:本論文の著者全員がRegeneronの社員である。
3)
Carle MV, et al.: Expert Rev Ophthalmol. 2013; 8(3): 227-235. 利益相反:著者にRegeneronよりコンサルタント料などを受領している者が含まれる。
4)
Tadayoni R, et al.: Ophthalmologica. 2021; 244(2): 93-101. 利益相反:著者にBayerより研究費、コンサルタント料などを受領している者が含まれる。
5)
Regula JT, et al.: EMBO Mol Med. 2016; 8(11): 1265-1288.
VEGF-Aに対する結合親和性を示すKD(平衡解離定数)は、アフリベルセプトでは0.1719pM*でした
VEGF-Aに対する結合親和性(in vitro)
*:原著から単位(fM→pM)を変更
KD(equilibrium dissociation constant):平衡解離定数(結合親和性の強さを示す値、数値が小さいほど結合しているリガンドと受容体の濃度が高いことを示す)
95%信頼区間は理想的なKD曲線に当てはめることにより算出
方法
組換え型ヒトVEGF-A165を用いたアフリベルセプト、ブロルシズマブおよびラニビズマブの結合親和性は結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay)により検討し、平衡解離定数は非線形回帰分析から求めた。
利益相反
本試験はBayerおよびRegeneronの支援のもと実施、著者らはすべてRegeneronもしくはBayerの社員(元社員を含む)である。
Schubert W, et al.: Transl Vis Sci Technol. 2022; 11: 36.より一部改変
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
VEGF-A阻害作用を示す細胞内カルシウム動員に対するIC50(50%阻害濃度)はアフリベルセプトでは2.42nMでした
VEGF-Aによる細胞内カルシウム動員に対する阻害作用(IC50, in vitro)
IC50(50%阻害濃度):阻害の強さを示す値。数値が小さいほど低濃度でリガンドと受容体との結合を50%阻害したことを示す。
方法
ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell:HUVEC)を用い、組換え型ヒトVEGF-A165による細胞内カルシウム動員を測定し、アフリベルセプト、ブロルシズマブおよびラニビズマブのヒトVEGF受容体阻害作用を検討した。
利益相反
本試験はBayerおよびRegeneronの支援のもと実施、著者らはすべてRegeneronもしくはBayerの社員(元社員を含む)である。
Schubert W, et al.: Transl Vis Sci Technol. 2022; 11: 36.より一部改変
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
VEGF-A165とVEGFR-1およびVEGFR-2との結合阻害作用を示すIC50は、アフリベルセプトではそれぞれ16pM、26pMでした
抗VEGF薬のVEGF-VEGF受容体結合の阻害作用(IC50, in vitro)
NB: no detectable binding
試験方法
VEGF受容体-1またはVEGF受容体-2を発現させたHEK293細胞を用いて、20pMヒトVEGF(hVEGF)-Aあるいは40pMヒトPlGF(hPlGF)-2と各種VEGF受容体の結合に対するアフリベルセプトおよびラニビズマブの50%阻害濃度(IC50)を算出した。
Papadopoulos N, et al.: Angiogenesis. 2012; 15(2): 171-185.より一部改変 利益相反:本論文の著者全員がRegeneronの社員である。
PlGFも病的な状態では血管新生の発生に関与しており、PlGF存在下では、VEGF-AがVEGFR-2に優先的に結合し、血管新生を促進します
PlGFの分子メカニズム1)
監修:北海道大学 大学院医学研究院 眼科学教室 教授 石田 晋 先生
1)
Fischer C, et al.: Nat Rev Cancer. 2008; 8(12): 942-956.より一部改変
2)
Waltenberger J, et al.: J Biol Chem. 1994; 269(43): 26988-26995.
3)
Park JE, et al.: J Biol Chem. 1994; 269(41): 25646-25654.
DMEでは眼内PlGF濃度の上昇も報告されており、VEGFR-1に結合するPlGFもDMEの病態に関与していると考えられています
前房水中PlGF濃度
対象
糖尿病網膜症患者20例(糖尿病黄斑浮腫6例、増殖糖尿病網膜症8例、血管新生緑内障6例)
方法
前房水サンプルを各群、およびコントロール群8例(非糖尿病で黄斑上膜または加齢性白内障患者)より採取し、PlGF濃度をELISA法で測定した。
Ando R, Noda K, Namba S, et al.: Acta Ophthalmol. 2014; 92(3): e245-e246., John Wiley and Sons.
利益相反:本論文の著者にBayerより研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
ⓒ2013 Acta Ophthalmologica Scandinavica Foundation
アフリベルセプトは、nAMDおよびDMEの病態下でPlGFを含むVEGFファミリーと結合し、血管新生や血管透過性亢進、炎症を抑制すると考えられます
nAMDおよびDMEにおける血管透過性亢進に対するVEGF/PlGFの関与
監修:北海道大学 大学院医学研究院 眼科学教室 教授 石田 晋 先生
まとめ
アフリベルセプトは、nAMDおよびDMEの病態の主因と考えられるVEGF-Aに対する阻害作用を有するだけでなく、PlGFへの阻害作用も有することで、血管新生、血管透過性亢進、炎症を抑制し、病態形成の抑制が期待できます。
VEGFは、nAMDおよびDMEの病態に関連していると考えられています1‐3)。
VEGF-AはVEGFR-1およびVEGFR-2に結合し、炎症、血管透過性亢進、血管新生を惹起します。
アフリベルセプトは、唯一のVEGFファミリー阻害薬であり、VEGF-Aに加えVEGF-BやPlGFを阻害します。
現在承認されている抗VEGF薬は共通して、主な標的因子としてVEGF-Aの阻害作用を有しています(2024年8月現在)1、2,4‐6)。
VEGF-A165とVEGFR-1およびVEGFR-2との結合阻害作用を示すIC50は、アフリベルセプトではそれぞれ16pM、26pMでした2)。
PlGFも病的な状態では血管新生の発生に関与しており、PlGF存在下では、VEGF-AがVEGFR-2に優先的に結合し、血管新生を促進します7-9)。
DMEでは眼内PlGF濃度の上昇も報告されており、VEGFR-1に結合するPlGFもDMEの病態に関与していると考えられています10)。
1)
Uemura A, et al.: Prog Retin Eye Res. 2021. DOI: 10.1016/j.preteyeres.2021.100954. 利益相反:本論文の編集補助者に対して、Bayer Consumer Care AGより資金提供があった。著者にBayerより研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
2)
Papadopoulos N, et al.: Angiogenesis. 2012; 15(2): 171-185. 利益相反:本論文の著者全員がRegeneronの社員である。
3)
Saharinen P, et al.: Nat Rev Drug Discov. 2017; 16(9): 635-661.
4)
Carle MV, et al.: Expert Rev Ophthalmol. 2013; 8(3): 227-235. 利益相反:著者にRegeneronよりコンサルタント料などを受領している者が含まれる。
5)
Tadayoni R, et al.: Ophthalmologica. 2021; 244(2): 93-101. 利益相反:著者にBayerより研究費、コンサルタント料などを受領している者が含まれる。
6)
Regula JT, et al.: EMBO Mol Med. 2016; 8(11): 1265-1288.
7)
Fischer C, et al.: Nat Rev Cancer. 2008; 8(12): 942-956.
8)
Waltenberger J, et al.: J Biol Chem. 1994; 269(43): 26988-26995.
9)
Park JE, et al.: J Biol Chem. 1994; 269(41): 25646-25654.
10)
Ando R, et al.: Acta Ophthalmol. 2014; 92(3): e245-246. 利益相反:本論文の著者にBayerより研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。