DME治療の新たな選択肢への期待
―Sustainable Disease Control(SDC)の視点から
Ophthalmology Web Conference
開催日:2024年3月5日
滲出型加齢黄斑変性(nAMD)および糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する抗VEGF薬の有用性は確立されているが、長期間の治療が必要であり、定期的な硝子体内注射は患者側、医療従事者双方にとって負担となっている。
そこで、投与間隔の延長を目的とし、アイリーア8mgが開発された。
アイリーア8mgは2024年1月に「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」及び「糖尿病黄斑浮腫」を効能又は効果として承認を取得し、抗VEGF薬の選択肢が増えた。
本講演では、Sustainable Disease Control (SDC)の観点からnAMDとDMEの新たな治療選択肢としてのアイリーア8mgについて解説された。
坂本 泰二 先生
鹿児島大学大学院
医歯学総合研究科
先進治療科学専攻
感覚器病学講座 眼科学分野
糖尿病黄斑浮腫(DME)治療の実際
J-CRESTグループによるSTREAT DME Studyによると、DME治療において他の治療法との併用も含め抗VEGF薬の使用が高まっていることが報告され、さらに治療介入2年後の視力改善が向上したことも報告されている1)。DMEに対する硝子体手術による視力改善は限定的であったため、抗VEGF薬登場前の治療目標は視力を悪化させないことであったが、抗VEGF薬により視力改善が見込めるようになってきた。
糖尿病網膜症患者は、様々な併存疾患を持ち長期的な生命予後が不良であることが多く、予定通りのフォローアップができない場合があり、DME患者の40%以上が100日以上フォローアップからはずれたという報告2)がある。また、抗VEGF薬で治療した患者のうちプロトコルを順守した場合の視力予後は良好であるが、順守できない場合は視力予後が悪いことも報告3)されている。そのため、患者の性格・好み・社会経済環境などを勘案した治療や薬剤が必要と考える。
DME治療におけるSustainable Disease Control(SDC)
黄斑疾患治療において、疾患活動性を示す血管新生や血管透過性亢進などの病態を持続してコントロールし、長期的に視力低下を防ぐことが重要であり、SDCとはその治療達成を目指した治療目標である。SDCを達成するために求められる基準としては、改善した視力を長期に維持できること、Fluidを速やかに減少させ長期に維持できること、負担軽減により治療継続できることが挙げられる。それに加えて、安全性も求められていることは言うまでもない。アイリーア(2mg)は既報4,5)からこれらのSDC達成に求められる基準の「改善した視力を長期に維持できる」、「Fluidを速やかに減少させ長期に維持できる」を満たすことが期待される薬剤と考えている。
長期的な視力維持に関しては、アイリーア(2mg)の第Ⅲ相臨床試験であるVISTA-DME試験4)により、148週目における最高矯正視力(BCVA)文字数のベースラインからの変化量の平均値が、レーザー治療群が+1.4文字であったのに対し、アイリーア(2mg)4週ごと投与群で+10.4文字、8週ごと投与群で+10.5文字を示し、更にVISTA-DME試験の完了症例60例を対象に実施されたENDURANCE延長試験5)では、ENDURANCE試験開始時から104週目のBCVAの変化量の平均値は+0.8文字であったことが報告されている。
また、Fluidに関しては、同じくVISTA-DME試験で中心網膜厚(CRT)のベースラインからの変化量の平均値が評価され、52週目ではレーザー治療群が-73. 3μmであったのに対し、アイリーア(2mg)4週ごと投与群で-185.9μm、8週ごと投与群で-183.1μmを示し、148週目では、それぞれ-109.8μm、-200.4μm、-190.1μmを示した。さらにENDURANCE延長試験では、延長試験開始時からの変化量の平均値が-65~+35μmの間を推移し、104週目では延長開始時のCRTに近い値となった。よって、アイリーア(2mg)は視力、CRTともに5年にわたる成績が報告されている。
DME患者は、長期にわたる高血糖状態により血管が傷害され、全身にさまざまな合併症を引き起こすことが言われているが、VISTA-DME試験の148週までの重篤な全身性有害事象発現率は、アイリーア(2mg)4週ごと投与群44.0%、8週ごと投与群では43.2%、レーザー治療群では40.4%であった。その他の臨床試験においても、アイリーア(2mg)を用いたDME治療における有効性が示されるとともに、安全性についての検討が行われている。
SDC達成に求められる基準の「負担軽減により治療継続できる」については、アイリーア(2mg)に関して投与間隔の延長が種々試みられているものの、まだ十分に解決しているとは言えない。
アイリーア8mgという新たな治療選択肢
投与間隔の延長は、来院回数や投与回数の減少につながり、患者・介助者の負担軽減や外来の混雑解消、医師の業務負担軽減にもつながる。そこで、投与間隔を延長することを目的として、アイリーア8mgが開発された。
DME患者を対象とした第Ⅱ/Ⅲ相国際共同臨床試験であるPHOTON試験6)では、アイリーア8mg12週間隔または16週間隔投与による有効性についてアフリベルセプト2mg8週間隔投与に対する非劣性を検証するとともに、安全性についても検討した。本試験における導入期の投与回数は異なり、アフリベルセプト2mgは5回、8mgは3回であった。アイリーア8mg投与群は16週目以降DRM(doseregimen modifi cation)基準に合致した場合には投与間隔を最短8週ごとに短縮することが可能とされ、2年目以降は投与間隔の延長も可能とされた。
主要評価項目(検証的な解析)である48週目におけるBCVAのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、アイリーア8mg12週間隔投与群で+8.1文字、8mg16週間隔投与群で+7.2文字、2mg8週間隔投与群で+8.7文字であり、8mg12週間隔投与群および8mg16週間隔投与群の2mg8週間隔投与群に対する非劣性が検証された(図1)。また、60週目におけるBCVAのベースラインからの変化量についても8mg12週間隔投与群および8mg16週間隔投与群の2mg8週間隔投与群に対する非劣性が示された。
図1|BCVAのベースラインからの変化量[48週:主要評価項目(検証的解析結果)、60週:主な副次評価項目]
(MMRM、FAS)
※1
実測値
※2
各群ー2mg8週間隔投与群
※3
非劣性(非劣性限界値-4文字)の片側検定
●
MMRM(mixed model for repeated measurements):反復測定混合効果モデル。ベースラインの最高矯正視力文字数を共変量、投与群、来院および層別因子[ベースラインのCRT(400μm未満、400μm以上)、過去のDME治療(あり、なし)および地域(日本、その他の地域)]を固定効果とし、ベースラインの最高矯正視力文字数と来院の交互作用項、投与群と来院の交互作用項を含む。
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
CRTのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、48週目では8mg12週間隔投与群で-176.8μm、8mg16週間隔投与群で-148.8μm、2mg8週間隔投与群で-164.9μmであった。また、60週目ではそれぞれ-182.0μm、-166.3μm、-194.2μmであった。
48週目における投与間隔は、8mg12週間隔投与群では91.0%の患者が12週間隔投与を維持、9.0%の患者が8週間隔投与に短縮していた。8mg16週間隔投与群では、89.1%の患者が16週間隔投与を維持、3.8%の患者が8週間隔投与に短縮していた(図2)。また、60週目における投与間隔は、8mg12週間隔投与群では90.3%の患者が12週間隔を維持しており、8mg16週間隔投与群では85.5%の患者が16週間隔を維持していた。なお、8mg16週間隔投与群では34.2%の患者が次回予定された投与間隔が20週間隔に延長すると判断されていた。
図2|48週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合/投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合[探索的評価項目]
8mg12週間隔投与群において48週目まで投与間隔 が12週間隔以上であった患者の割合(SAF※)
8mg16週間隔投与群において48週目まで投与間隔 が16週間隔以上であった患者の割合(SAF※)
※
SAFのうち48週目までの投与を完了した患者のみ
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
平均投与回数は、48週目では8mg12週間隔投与群で5.7回、8mg16週間隔投与群で4. 9回、2mg8週間隔投与群で7.7回、60週目ではそれぞれ6.6回、5.9回、9.5回であった(図3)。投与間隔および投与回数の結果から、アイリーア(2mg)で十分でなかったSDC達成に求められる「負担軽減により治療継続できる」という基準をアイリーア8mgが補完できる可能性がある。
図3|48週目および60週目までの投与回数[事前に規定されたその他の評価項目]
投与回数※(試験眼、SAF)
※
偽注射を除く投与回数
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
安全性については、60週間におけるすべての有害事象は8mg投与群併合で75.6%、2mg8週間隔投与群で73.7%であった。
まとめ
抗VEGF薬の硝子体注射後に視力改善が得られ、さらに視力改善が長期にわたり維持されることは、患者の治療に対する期待に応えることにつながり、長期に及ぶ治療に前向きに取り組むことに好影響を与える可能性がある。
また、患者に治療効果を十分に実感してもらうためにも、治療に対するリスク・ベネフィットの絶え間ない評価が大切であると考えている。
文献
1)
Shimura M, et al.: Br J Ophthalmol. 2020; 104: 1209-1215
2)
Weiss M et al.: Retina 2018; 38(12): 2293-2300
3)
Obeid A. et al.: Ophthalmology 2019; 126(3): 407-413
4)
Heier JS, et al.: Ophthalmology 2016; 123: 2376-2385
5)
Wykoff CC, et al.: Br J Ophthalmol 2018; 102: 631-636
6)
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
座長コメント
黄斑疾患治療目標において、SDCの観点から、視力改善、fluid改善、負担軽減の3つの求められる基準を達成することはHappy Patients、Happy Doctorsにつながると考える。
アイリーア8mgの登場により、これらの基準が最適化され、患者・医師の両者にとって良好な結果につながっていくことを期待している。
岡田 アナベル あやめ 先生
杏林大学医学部眼科