アイリーア8mg がもたらすDME治療の可能性
Ophthalmology Web Conference
開催日:2024年5月14日
中尾 新太郎 先生
順天堂大学医学部
眼科学講座
実臨床における抗VEGF療法
糖尿病網膜症における視力低下の主な原因は、増殖糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫(DME)であるが、増殖糖尿病網膜症は以前に比べ減少している1)。一方で糖尿病の罹病期間が長くなるとDMEの合併も増加する可能性があり2)、糖尿病患者の寿命が延びている現代では、DMEを診療しコントロールすることが重要になる。
DMEは長らくレーザー光凝固、ステロイド療法、硝子体手術を主な選択肢として治療が行われてきたが、視力改善のエビデンス3)を有する抗VEGF療法が登場し、現在の治療の第一選択となっている。失明回避からより良い視力を維持することへと変化してきている現在のDME治療の目標を達成するためには、抗VEGF療法を上手く使うことが鍵となる。
抗VEGF療法による最長5年間の視力成績を検討した研究4)では、長期的にみると、滲出型加齢黄斑変性(nAMD)では治療開始時の視力を下回るといった特徴が示されたが、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫やDMEでは治療開始時の視力を下回ることはなかった。しかし、DMEにおいても、5年間の経過の中で、初期治療により改善した視力は徐々に低下しており、長期的に視力を維持することが課題と考えている。
抗VEGF薬の投与レジメンには、T&E(Treat and Extend)やPRN(Pro Re Nata)があり、T&Eでは受診回数は少なくて済むが、トータルの投与本数は多くなる傾向がある。一方、PRNでは毎月の来院を必要とするため受診回数は増えるが、必要時投与によりトータルの投与本数は少ない傾向がある5)。患者の要望や事情に応じて選択することが大切である。
DMEを対象とした大規模試験6)において、初年度はレーザー光凝固により治療を開始し、2年目以降に抗VEGF療法を行った患者では、初年度から抗VEGF療法を開始した患者と比べて、長期的な視力改善が限定的であったことが報告されており、早期から抗VEGF療法による介入を行うことが重要である。また、抗VEGF薬の導入期3回投与の有無がDME患者における1年後の視力改善に影響したことが報告されていることから7)、長期的な視力改善を得るためには導入期投与を行うことも重要であると考える。
DRCR.netのProtocol-T8)では、DMEに対して抗VEGF薬を初年度から積極的に投与する中で、2年目以降に治療不要例が増えた。多くのDME症例では早期のVEGF濃度抑制が重要であり、治療初期から抗VEGF薬をしっかり投与することで長期的には必要本数が減ってくる9)のが、DMEに対する抗VEGF療法の特徴である。DMEを対象としてレーザー局所光凝固を併用したアイリーア(2mg)T&E投与の治療成績を評価した多施設共同前向き研究10)でも、平均投与回数は1年目に7.0回を要したが、2年間でみると11.4回であった。また、本研究において、アイリーア(2mg)T&E投与により投与間隔が16週間隔であった患者の割合は2年目終了時点で66.7%であったことが報告されている(図1)。
図1|投与間隔の分布および投与回数[副次評価項目]
Hirano T, et al.: Sci Rep. 2021; 11: 4488
利益相反:本研究はバイエル薬品株式会社の支援により行われた。著者にバイエル薬品株式会社、参天製薬株式会社より研究費、講演料、謝礼などを受領している者が含まれる。
抗VEGF療法の問題点
DME患者の約40%が、3年間の治療継続のうえでも抗VEGF療法に抵抗性を示すことが報告されている11)。我々が行った検討12)では、未治療DMEではVEGF依存性の炎症が存在するのに対し、治療抵抗性DMEでは炎症性サイトカインとVEGFの相関はみられず、VEGF非依存性の炎症がDMEの治療抵抗性に関連することが示唆された。また、VEGF強制発現網膜では、VEGFに遅れて炎症性サイトカインが上昇することが示された。これらのことから、VEGFを放置することが慢性炎症につながり、炎症の負のサイクルにより視細胞障害が進展することで、抗VEGF療法による改善効果が乏しくなると考えられる。
米国の網膜専門医におけるDME治療方針のトレンドは変化しており、2015年から2020年にかけて抗VEGF療法が43.5%から61.8%に増加した一方、レーザー光凝固による単独療法は9.7%から3.0%に減少した13)。また、日本のDME治療のトレンドにおいても、網膜専門医176名のうち81.2%が抗VEGF療法を第一選択としていた14)。しかし、DMEを対象とした抗VEGF療法による大規模臨床試験における初年度平均投与回数は7~12回と報告されているのに対し3)、実臨床下での臨床試験における11カ月目までの平均投与回数は3.6回であり6)、実臨床ではアンダートリートメントとなっているケースが多いと考えられる。その主な原因は経済的負担であり、日本の網膜専門医の多くが治療を継続する上での問題点として挙げている14)。
アイリーア8mgへの期待
投与間隔を延長することにより投与回数が少なくなれば、「投与手技に関連する有害事象のリスク軽減」や「患者、医師、介護者および医療従事者の負担軽減」が期待できることから、患者の経済的負担だけでなく、医療者側の負担も軽減するためにアイリーア8mgが開発された(図2)。
アフリベルセプトは、VEGF-Aだけでなく、炎症にも絡むPlGF、VEGF-BのVEGFR-1への結合も阻害する。既存のアイリーア(2mg)では投与容量は0.05mLであったが、アイリーア8mgは高濃度のアフリベルセプトで投与容量を0.07mLとすることにより、約4倍量の分子量の投与を行う製剤であり、シミュレーションの結果、既存のアイリーア(2mg)に比べ、投与間隔の20日間の延長が可能と予測された。
図2|アイリーア高濃度製剤開発の背景
日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験15)
【概要】
PHOTON試験では、アイリーア8mg12週間隔または16週間隔投与による有効性についてアフリベルセプト2mg8週間隔投与に対する非劣性を検証するとともに、安全性についても検討した。試験対象はDME患者660例であり、うち日本人が74例含まれていた。アフリベルセプト2mg投与群は、導入期として4週間隔で5回投与後に8週間隔で投与し、アイリーア8mg投与群は導入期3回投与後、12週または16週間隔で投与した。ただし、8mg12週間隔投与群および16週間隔投与群では、16週目以降、DRM(doseregimen modifi cation)基準に従い投与間隔を変更した。
【結果】
主要評価項目(検証的な解析)である48週目における最高矯正視力(BCVA)文字数のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、アイリーア8mg12週間隔投与群で+8.1文字、8mg16週間隔投与群で+7.2文字、2mg8週間隔投与群で+8.7文字であり、8mg12週間隔投与群および8mg16週間隔投与群の2mg8週間隔投与群に対する非劣性が検証された(図3)。60週目はそれぞれ+8.5文字、+7.6文字、+9.4文字であり、8mg12週間隔投与群および16週間隔投与群の2mg8週間隔投与群に対する非劣性が示された。
図3|BCVAのベースラインからの変化量[48週:主要評価項目(検証的解析結果)、60週:主な副次評価項目]
(MMRM、FAS)
※1
実測値
※2
各群-2mg8週間隔投与群
※3
非劣性(非劣性限界値-4文字)の片側検定
●
MMRM(mixed model for repeated measurements):反復測定混合効果モデル。ベースラインの最高矯正視力文字数を共変量、投与群、来院および層別因子[ベースラインのCRT(400μm未満、400μm以上)、過去のDME治療(あり、なし)および地域(日本、その他の地域)]を固定効果とし、ベースラインの最高矯正視力文字数と来院の交互作用項、投与群と来院の交互作用項を含む。
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
48週目における中心網膜厚(CRT)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、8mg12週間隔投与群で-176.8μm、8mg16週間隔投与群で-148.8μm、2mg8週間隔投与群で-164.9μmであり、60週目はそれぞれ-182.0μm、-166.3μm、-194.2μmであった。
アイリーア8mg12週間隔投与群および16週間隔投与群において、それぞれ12週または16週間隔を維持できた割合、つまり、DRM基準に合致せず投与間隔の短縮が行われなかった割合は、48週目で91.0%と89.1%(図4)、60週目で90.3%と85.5%であった。
図4|48週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合/投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合[探索的評価項目]
8mg12週間隔投与群において48週目まで投与間隔が12週間隔以上であった患者の割合(SAF※)
8mg16週間隔投与群において48週目まで投与間隔が16週間隔以上であった患者の割合(SAF※)
※ SAFのうち48週目までの投与を完了した患者のみ
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
平均投与回数は、48週目までは8mg12週間隔投与群で5.7回、8mg16週間隔投与群で4. 9回、2mg8週間隔投与群で7.7回、60週目まではそれぞれ6.6回、5.9回、9.5回であった(図5)。
図5|48週目および60週目までの投与回数[事前に規定されたその他の評価項目]
投与回数※(試験眼、SAF)
※ 偽注射を除く投与回数
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
60週間において、試験眼の有害事象は8mg12週間隔投与群で36.0%、8mg16週間隔投与群で34.4%、2mg8週間隔投与群で29.3%、全身性の有害事象はそれぞれ59.5%、63.8%、57.5%に認められた。また、アイリーア8mgは投与容量が0.07mLであることから眼圧上昇の発現が懸念されるが、眼圧上昇事象は8mg12週間隔投与群で3.4%、8mg16週間隔投与群で0.6%、2mg8週間隔投与群で4.2%であった。
まとめ
DME治療の第一選択は抗VEGF療法であるが、経済的負担を原因とするアンダートリートメントや治療抵抗例が課題となっている。治療抵抗例のなかには、例えば、投与1カ月後の来院時では効果が得られなかったようにみえても、患者の自覚症状を確認することで、投与2週後までは効果が得られていた可能性があるケースも含まれると考える。治療抵抗例における効果持続の観点で、高濃度製剤であるアイリーア8mgに期待している。
また、長期的な視力維持の観点から、早期に治療介入し、治療方法としては導入期を設けしっかり投与することも重要である。既存のアイリーア(2mg)の用法では導入期として連続5回投与を行うことになっているが、アイリーア8mgでは導入期として通常、連続3回投与を行うこととなっていることからも、アイリーア8mgは負担軽減が期待され、患者側、医療者側、双方の治療継続に寄与すると考えている。
文献
1)
安田美穂:あたらしい眼科. 2016; 33(9): 1247-1251
2)
Graue-Hernandez EO, et al.: BMJ Open Ophthalmol. 2020; 5(1): e000304
3)
Dugel PU, et al.: Clin Ophthalmol. 2016; 10: 1103-1110
4)
Ciulla TA, et al.: Ophthalmol Retina. 2022; 6(9): 796-806
5)
Prünte C, et al.: Br J Ophthalmol. 2016; 100(6): 787-795
6)
Schmidt-Erfurth U, et al.: Ophthalmology. 2014; 121(5): 1045-1053
7)
Sakamoto T, et al.: Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022; 260(2): 477-487
8)
Glassman AR, et al.: Ophthalmology. 2020; 127(9): 1201-1210
9)
Wykoff CC, et al. Br J Ophthalmol. 2018; 102(5): 631-636
10)
Hirano T, et al.: Sci Rep. 2021; 11(1): 4488
11)
Bressler SB, et al.: JAMA Ophthalmol. 2016; 134(3): 278-285
12)
Arima M, et al.: Diabetes. 2020; 69(5): 981-999
13)
Sodhi GS, et al.: J Vitreoretin Dis. 2023; 7(3): 199-202
14)
Sugimoto M, et al.: J Diabetes Investig. 2019; 10(2): 475-483
15)
バイエル薬品社内資料[日本人を含む第Ⅱ/Ⅲ相国際共同試験:PHOTON試験]承認時評価資料
Q&A
安川先生:アイリーア8mgはどのような点で期待できるか?特にどのような患者の処方にメリットを感じるか(未治療患者にも期待しているか)?
大石先生:nAMDにおいては、既存のアイリーア(2mg)で効果が認められている患者は勿論のこと、アイリーア8mgにはPULSAR試験の結果で示されたような効果持続性に期待している。そのため、使いにくい患者を除いては、アフリベルセプトを選択する際に、既存の2mgではなく、基本的に8mgを中心として治療するという使い方でいいのではないかと考えている。未治療患者についても同様である。
中尾先生:DMEにおいても、大石先生と同じように考えている。既存のアイリーア(2mg)で効果が認められている患者は勿論のこと、未治療患者におけるアイリーア8mgによる効果持続性について期待している。一般的に投与間隔の延長は、トータルの投与回数の減少にもつながる可能性があると考えている。また、VEGFをしっかり抑えないと炎症が惹起されて治療抵抗例になってしまう可能性を考えると、早期からの抗VEGF療法の介入、治療初期からしっかりVEGFを抑えることが重要である。そういった観点からも、アイリーア8mgを用いた初期治療に期待している。
安川先生:PULSAR試験、PHOTON試験で、アイリーア8mg投与群における12週または16週の投与間隔が維持された割合、投与回数の結果が示された。臨床上のポイントや意義をどう考えるか?
大石先生:12週または16週の投与間隔を維持した割合の結果が薬価に見合うかどうかというのは今後臨床で使用する上でのポイントになると考えている。1回のコストは高いが、その分来院の頻度が減少し、トータル的にみて負担が少ないということになれば、患者にとっても医療者にとっても使いやすくなる。
中尾先生:治療の選択肢が増えている中、我々医療者が患者に説明するときには、長期的な目線、つまり持続可能な治療(SDC)を達成できるかが重要だと考える。そこを患者にも理解してもらえれば、先行投資ということで、薬価が高くてもアイリーア8mgの使用を検討しやすくなるように考える。
安川先生:抗VEGF療法の有効性として、nAMDにおいてはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や網膜色素上皮剥離(PED)への効果、また、DMEであれば毛細血管瘤への作用(参考情報)などに期待したいところである。そのような効果または作用が認められた結果、再発が少なくなり、視力予後の改善に繋がる可能性があると思うがどう考えるか?また、しっかりと治療を行うべき病型や病態、効果が期待できる病型や病態についても意見を伺いたい。
大石先生:AMD治療においては、PCVやPEDへの効果に期待したいと考える。しかし、現時点ではまだデータが不足しているため、あくまでも期待に過ぎない。
中尾先生:DMEは抗VEGF療法を継続することで、毛細血管瘤や硬性白斑を含めた網膜症自体への作用(参考情報)が報告されている。現時点ではアイリーア8mgではデータが不足しているため、今後の情報の集積に期待したい。
安川先生:安全面について、使用上注意すべき点はどのように考えているか?
大石先生:投与容量が多くなることが一番の注意点だと考える。
安川先生:眼圧上昇への対策として、前房穿刺は行うか?
大石先生:全例に対して同様に前房穿刺を行うということは考えていない。
安川先生:臨床で使用する上では投与回数も考慮する必要があるが、眼内炎症についてはいかがか?
中尾先生:両試験の60週間における眼内炎症反応の発現割合は、PULSAR試験ではアフリベルセプト2mg8週間隔投与群で1.2%、アイリーア8mg投与群併合で0.7%であり、PHOTON試験ではそれぞれ0.6%、1.0%であった。従来通り、注意して診察していく必要があると考えている。
まとめ(安川先生)
これまで臨床で使用してきたアイリーア(2mg)の高濃度高容量製剤であるアイリーア8mgを、今後どのように使用していくかがポイントになる。本日の講演が先生方の日常診療の参考になれば幸いである。
安川 力 先生
名古屋市立大学大学院
医学研究科視覚科学